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福岡高等裁判所 昭和24年(つ)713号 判決

被告人

尾関孝

主文

本件控訴はこれを棄却する。

理由

弁護人堤千秋の控訴趣意第一点について。

(イ)  義歯(総入歯)の折損自体が傷害罪を構成しないことは論旨の通りであると思う。しかしながら原判決の事実摘示と挙示の証拠とを対比熟読するときは、原判決が本件傷害罪の構成要件として認定した事実は、被告人が長島静代の顔面を殴打し下顎架橋義歯の転移に基く歯齦炎症を生ぜしめた点のみであつて、同判決文中その直前に記載されてある同女の上顎義歯の左右中切歯二本を折損しとある辞句は義歯(上顎総入歯)折損もまた傷害罪を構成するとの見解のもとに書かれたものではなく、被告人の同女に対する殴打の程度特にその殴打が下顎架橋義歯の転移による歯齦炎症を生ぜしむるに足る程度のものであつたことと間接に表示せんがため、構成要件以外の右事実をもことの成り行に則して記載したものに過ぎないと解するを正当とするから原判決には所論の如き法令適用についての誤りはない。

同第二点について。

(ロ)  起訴状には左頬下部一面に皮下出血の症状を呈する傷害を加えたこと記載してあるに対し、原判決においては前記のように歯齦炎症を生ぜしめたものと認定し傷害の態様においてその間多少の相違あることは所論の通りである。しかしながらともに被告人の手拳による顔面殴打による傷害であることに間違なくまた傷害の部位、種類、程度においても差したる差異はない。

かかる場合においてはあえて訴因変更の手続をなさずとも被告人の防禦に何等の不利益を来たすおそれがない。

しからば訴訟経済の見地からいつてもかかる場合の変更手続を履む必要なしと解するを相当とする。

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